練習・分析 2026-10-26

大学野球のデータ分析とは?トラックマン・ラプソードの違いと部での始め方

「トラックマンで計測した回転数は2,300回転」「ラプソードのデータをもとにフォームを見直した」。大学野球の記事や中継で、こうした言葉を目にする機会が増えました。一方で、現役部員や入部を考えている高校生からは、「そもそも何を測っているのか」「うちの部でも使えるのか」「データ担当の学生スタッフは何をしているのか」といった疑問も聞こえてきます。

この記事では、大学野球で使われる弾道測定器(トラックマン、ラプソード、ホークアイ)の違いと、東京六大学野球が2019年にトラックマンを使い始めた経緯、東大野球部の学生が公表している取り組みを、出典付きで整理します。そのうえで、一般的な考え方として、部でデータ分析を始めるときの手順とつまずきやすい点をまとめます。

なお、各大学が実際にどの機器をどう使っているかは、多くの場合公表されていません。この記事で「確認できた」と書くのは、連盟の発表や報道、本人の発信で裏付けが取れた範囲に限ります。それ以外は一般論として書き、断定は避けています。

大学野球のデータ分析は「測る→見る→決める→振り返る」の繰り返し

データ分析というと、機器を買って数字を集めることだと思われがちです。しかし、公表されている事例を読むと、中心にあるのは機器そのものではなく、数字を使って次の行動を決めることです。

東大野球部で兼アナリストを務めた人物は、データ分析が役立つ場面を次の3つに整理して語っています(パラサポ:東大野球部の連敗記録ストップに貢献!ホークスのアナリストが語る、課題解決に活きるデータ分析の可能性)。

  1. 目標設定: 「優勝する」のような抽象的な目標を、安打数や得点数のような測れる目標に置き換える
  2. 進捗の可視化: 達成率をグラフにして、チーム全体が現在地を共有する
  3. 振り返り: 結果を数字で評価し、次の戦略に反映する

つまり、データ分析は「強い選手を見つける道具」というより、「チームが同じ物差しで話すための共通言語」として使われている、と読み取れます。この見方を持っておくと、機器の違いや指標の話も理解しやすくなります。

トラックマン・ラプソード・ホークアイの違い

大学野球の文脈で名前が挙がる主な機器は次の3つです。

機器仕組み主な設置場所のイメージ大学野球での位置づけ
トラックマンレーダー(ドップラー効果)でボールを追跡球場に設置東京六大学が神宮球場の機器を2019年秋から利用
ラプソード持ち運びできる小型の計測器練習場・ブルペン東大の練習場での導入が報じられている
ホークアイ複数のカメラ映像を解析球場に設置プロ野球での導入が報じられている。大学での普及状況は未確認

仕組みの違いは、元アナリストの解説記事(元東大野球部アナリストのnote:ホークアイとは?従来のトラックマンとの違い)が詳しく、トラックマンは電波を使って球速・回転・飛距離を測るのに対し、ホークアイはカメラ映像から選手の動きや守備位置まで捉えられる、と説明されています。同記事では、トラックマンはゴロや高いフライの計測が苦手な場合があること、スライダーのようにジャイロ成分が強い球では回転数や回転軸を正確に測りにくいことも挙げられています。機器にはそれぞれ得意・不得意があるため、数字は「機器の特性を踏まえて読む」必要があります。

また、ラプソードのような持ち運び式の機器は、プロ球団でも日々のブルペンでの計測に使われていると紹介されています(ラプソード公式note:千葉ロッテマリーンズの現役アナリストに聞いた「アナリストを目指す学生へのアドバイス」)。大学の部活動が検討する場合も、球場設置型を使えるのは連盟や球団との取り決めがある場合に限られ、日常の練習で使うなら練習場に置ける機器が現実的な選択肢になる、と考えられます。

東京六大学は2019年秋にトラックマンを使い始めた

大学野球のデータ活用を語るうえで外せないのが、東京六大学野球連盟の動きです。2019年9月12日に開かれた理事会の内容を伝える記事(熱球通信:東京六大学野球連盟理事会 トラックマン利用しデータを競技力向上などに活用)によると、次のような取り決めがなされたと伝えられています。

ここから分かるのは、データは各校に「配られる」一方で、使い方は各校に任されていたということです。この点は、東大野球部の元アナリストへの取材記事でも、「六大学で共有しますが、そのデータをどう生かすかは各大学に任されていた」と語られています(文春オンライン:ソフトバンクでデータ分析担当に採用されたアナリストが語る)。

同じデータを受け取っても、活用できる部とできない部が分かれる、という構造です。ここに、部内にデータを扱える学生スタッフがいる意味があります。

また、「数値は校内のみ」という取り決めがある以上、他大学の選手のトラックマン数値がニュースや公式サイトで一般に見られるわけではありません。外から見る私たちが確認できるのは、連盟が公表する成績や順位までです。

東大野球部の事例に見るデータの使い方

東大野球部の取り組みは、報道や本人の発信で比較的詳しく紹介されています。

テレビ東京の2021年の特集(テレビ東京:東京大学野球部 データで支える学生アナリスト「弱者の兵法」で勝利に導く)では、次の点が紹介されました。

また、ある学生アナリストは、トラックマンの導入によって、それまで手作業で集めていたデータの収集が自動化でき、運営の負担が減ったと語っています(ビジネス+IT:東大野球部のデータ分析)。投手の球種・コース・頻度や、打者の得意・不得意なコースを把握する作業が楽になった、という内容です。

そして、2017年秋季から続いていた引き分けを含む連敗を、2021年に「64」で止めたことが報じられています(文春オンライン)。データ分析だけが理由だと言い切ることはできませんが、データを使って目標・進捗・振り返りを回す仕組みを部内に作ったことが、チームづくりの一部だったと本人は語っています。

ここで注意したいのは、これらは東大という一つの部の事例だという点です。他の部で同じ体制や機器が使われているとは限りません。

計測できる主な指標と、数字の読み方

では、実際にどんな数字を見ているのでしょうか。2026年3月に公開されたスポーツナビの解説記事(スポーツナビ:現代野球を“見える化”する 最先端のデータ分析と戦略)は、投手の球質を測る要素として球速・回転数・回転軸の3つを挙げています。

これらの数字を読むときは、次の点に気をつけると誤解しにくくなります。

打撃面でも、打球速度や打球角度といった指標があります。ただし、大学野球の公式戦でこれらの数値が公表されている例は確認できていないため、この記事では詳しく扱いません。

部でデータ分析を始めるときの進め方(一般的な考え方)

ここからは、公表事例を踏まえた一般的な考え方です。特定の部の運用を示すものではありません。

  1. 目的を一つに絞る: 「球速を上げたい」「相手投手の傾向を把握したい」「ケガを減らしたい」など、最初の目的を一つに決めます。目的が曖昧だと、数字が増えるだけで使われなくなります。
  2. すでにあるデータから始める: 、練習試合の結果、ブルペンの球数など、機器がなくても集められる情報があります。スコアの付け方に自信がない場合は、スコアブックの書き方ガイドを先に確認すると、後でデータとして使いやすくなります。
  3. 測定のルールを決める: 誰が、いつ、どの機器で、どこに記録するかを決めます。ここが決まっていないと、担当者が替わった時に続かなくなります。
  4. 見せ方を工夫する: 東大の事例のように、達成率をグラフにして共有すると、選手が数字を自分ごととして捉えやすくなります。
  5. 振り返りの日を決める: 月に一度などと決めて、目標と結果を見比べます。

機器の導入は、1〜5が回り始めてから検討しても遅くない、という考え方もあります。費用が必要な場合は、部費・資金調達の方法も参考になります。

つまずきやすい3つのポイント

公開されている一次データと組み合わせて見る

測定器のデータは非公開でも、連盟が公表する成績は誰でも見られます。ベースボールマニアでは、東京六大学と東都大学野球の2026年秋季リーグ戦の順位表や日程、六大学の個人成績を公開しています。

たとえば、順位表で失点の多いチームを見つけたら、「どんな投手起用の傾向があるか」という問いを立てて、観戦しながら確かめることもできます。こうした見方は、部員が自分の部でデータを使うときの練習にもなります。

データ分析に関わる進路にも広がりがある

データを扱う学生スタッフは、選手としてではなくチームを支える道を選ぶ人にとっての選択肢です。入部の方法や役割は、アナリスト・学生トレーナーの入部方法で整理しています。卒業後の進路はスコアラー・アナリストのキャリアガイドで、また、ロッテのアナリストが「野球以外の分野も幅広く学ぶ」ことを勧めるインタビュー(ラプソード公式note)も参考になります。

よくある疑問

大学野球部はどこでもトラックマンを使えますか

確認できているのは、東京六大学が2019年秋から、神宮球場のトラックマンのデータを各校に提供する形を取ったことです。他の連盟や各校の運用は公表されていないため、使えるかどうかは断定できません。進学先の部に直接確認するのが確実です。

ラプソードなどの機器がないと分析できませんか

いいえ。スコアブックや練習の記録など、機器がなくても集められる情報があります。目的を決めて、記録のルールを作ることが先です。

データ分析をやると選手の個性が消えますか

そう言い切ることはできません。公表事例では、数字を目標設定や振り返りに使う例が中心で、感覚や感情を否定する話ではありません。数字は選択肢を増やす材料と考えるのが無難です。

まとめ

参考にした一次情報・報道

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