練習・トレーニング 2026-10-21

大学野球のメンタルトレーニング|試合で力を出す準備と緊張への向き合い方

「練習では普通にできているのに、リーグ戦になると体が硬くなる」「接戦の終盤になると、いつもの打席や投球ができない」。大学野球部員の中には、こうした経験を持つ人がいるのではないでしょうか。技術やフィジカルの練習量には自信があっても、試合の場面で力を発揮できるかどうかは、心の状態にも左右される場合があります。この記事では、メンタルトレーニングとは何をすることなのかという基本から、緊張との付き合い方、呼吸法・筋弛緩法、イメージトレーニング、試合前日から当日までの準備の組み立て方までを順番に整理します。主な根拠として、秋田県スポーツ科学センターが公開しているスポーツコラムなど、公的機関の資料を出典に示します。特別な道具や費用は必要なく、日々の練習に組み込める内容に絞っています。

メンタルトレーニングとは何か|「メンタルが弱い人のもの」ではない

メンタルトレーニングと聞くと、「気持ちが弱い選手が受けるもの」という印象を持つ人もいるかもしれません。秋田県スポーツ科学センターのコラムでは、メンタルトレーニングを「競技力向上のための心理的スキルを鍛えるためのトレーニング」と説明しており、メンタルが弱い人だけが行うものではなく、すべての選手が対象になりうるとしています。体力や技術と同じように、心の面も練習によって鍛えていくという考え方です。

同コラムは、スポーツでは「心・技・体」のバランスが大切であることにも触れています。技術と体力の練習に時間を使っていても、心の準備が追いついていなければ、持っている力を試合で出しにくくなる場合があります。また、メンタルトレーニングは試合前にさっとできる魔法のようなものではなく、日々の練習から継続して行うことが大切だと注意を促しています。「試合前日に本を読んで終わり」ではなく、練習の中で試して、自分に合うものを選んでおくイメージです。

なお、同センターの別のコラムでは、スポーツメンタルトレーニングを受ける際に、実験や調査などに基づく科学的な根拠のある指導が行われているかを確認することが大切だと述べられています。国内では日本スポーツ心理学会が認定する「スポーツメンタルトレーニング指導士」という資格があり、専門家に相談したいときの一つの目安になります。大学によってはスポーツ科学の部署や学内の相談窓口がある場合もあるため、チームで依頼を考える際は、学内の施設や所属する大学の制度を確認するとよいでしょう。

基本の流れ|6つのステップで考える

秋田県スポーツ科学センターのコラムでは、基本的なメンタルトレーニングの流れとして、次の6つが紹介されています。

  1. 自己理解: 心理テストや、自分の良かった・悪かったパフォーマンスの分析(ピークパフォーマンス分析)で、自分の心理面を知る
  2. 目標設定: 「どんな選手になりたいのか」「どのような結果を残したいのか」を言葉にして、競技行動を明確にし、やる気を高める
  3. リラクセーション: 緊張が高まる場面でも落ち着いてプレーできるよう、心をリラックスさせる方法を身につける
  4. イメージ: 新しい技術の獲得や試合の準備のために、イメージを用いて作戦や気持ちをつくる
  5. 試合に向けての心理的準備: 試合に向けて心の準備を進める
  6. 試合・振り返り: 試合後にプレーの反省や目標の達成度を確認し、次の試合に向けた振り返りを行う

この記事では、2つ目の「目標設定」以降のうち、野球部員が取り入れやすい「リラクセーション」「イメージ」「試合に向けた心理的準備」を中心に扱います。最初の「自己理解」は、後述するように、これまでの試合を振り返るノートから始めるのが取り組みやすい方法です。

緊張は悪者ではない|逆U字理論という考え方

試合前に緊張するのは、多くの選手が経験することです。ただ、「緊張しないようにしなければ」と考えるほど、かえって意識が緊張に向いてしまう場合があります。

秋田県スポーツ科学センターのリラクセーションに関するコラムでは、緊張とパフォーマンスの関係を示す「逆U字理論」が紹介されています。これは、適度な緊張は良いパフォーマンスにつながる一方、緊張が高すぎる場合はパフォーマンスの低下、いわゆる「あがり」につながるという考え方です。つまり目標は「緊張をゼロにすること」ではなく、「自分にとって高すぎない状態に整えること」だと整理できます。

同じく試合前の心理的準備を扱ったコラムでは、試合が近づくにつれて不安が高まることが報告されている(橋本ほか, 1984)と述べたうえで、不安の要因として失敗への気持ちが挙げられるとしています(金本ほか, 2002)。さらに、不安は必ずしも悪いものではなく、不安に思うからこそ入念に準備して良いパフォーマンスを発揮できる選手もいる(Norem, 2001)とも紹介されています。「不安になる自分はだめだ」と責めるのではなく、「その不安に対して今できる準備は何か」と考える方向に切り替えるのが、一つの実践的な捉え方です。

方法①|呼吸法と筋弛緩法で体から落ち着かせる

緊張が高まると、呼吸が浅くなり、無意識に体に力が入りがちです。同コラムでは、体の側からリラックスさせる方法として、呼吸法と筋弛緩法が紹介されています。

呼吸法|吐く息を長くする

呼吸は、息を吸うときに心拍数が上がり、吐くときに心拍数が下がるとされています。そのため、長くゆっくり息を吐く呼吸法がリラックスに適しています。具体的な手順は次のとおりです。

  1. 鼻からお腹が膨らむように息を吸う(2〜4秒)
  2. 呼吸を止める(1〜2秒)
  3. お腹がへこむようにゆっくりと口から息を吐く(4〜8秒)

ポイントは、吸う息よりも吐く息を長くすることです。野球の場面に置き換えると、打席に入る前、マウンドで間を取るとき、守備につく前の円陣の後など、競技のルール上すでにある「間」の時間に取り入れやすい方法だといえます。ただし、実際にどのタイミングで行うかは、チームの約束事や審判の進行を妨げない範囲で、自分で調整する必要があります。

筋弛緩法|力を入れて、抜く

筋弛緩法(漸進的筋弛緩法)は、筋肉に力を入れて緊張させたあとに力を抜くことで、緊張と弛緩の変化を感じ、筋肉をゆるませる方法です。コラムでは、筋肉に70%程度の力を5秒間入れ、その後一気に力を抜いて、20秒ほど力を入れた部位がゆるんだ感覚を感じるとされています。実施する部位は、①手と両腕、②額・目・顔・首・肩、③胸・腹、④両脚の4つに分けて順に行います。

注意点として、力を入れる部位にけががある場合は、不快感につながることもあるため控えるようにと書かれています。野球部員は肩や肘、腰などに痛みや違和感を抱えている場合もあるため、無理に力を入れず、違和感がある部位は飛ばすのが安全です。痛みが続く場合は、トレーナーや医師への相談を優先してください。

どちらの方法についても、同コラムは「偶然効果があった」ではなく「これをするとリラックスできる」と感じることが大切だとしています。方法には人それぞれ合う・合わないがあるため、練習から取り入れて、自分に合うものを見つけておくことが、試合で使うための前提になります。

方法②|イメージトレーニングで試合の場面を先に体験しておく

イメージトレーニングは、頭の中で場面を視覚的に思い浮かべるだけでなく、音や気持ち、動きまで感じ取りながら行うものです。秋田県スポーツ科学センターのコラムでは、イメージを鮮明に浮かべると、実際に行動したときと同じように生体が反応し、筋肉に伝えられると説明されています。例として、重要な場面をイメージすると身体が緊張するといった反応が挙げられています。この原理を利用して、技術練習や試合の状況をイメージし、練習効果を高めたり気持ちをつくったりするのが、イメージトレーニングです。

内的イメージと外的イメージを使い分ける

同コラムによると、イメージには2種類あります。

どちらが優れているということではなく、用途によって使い分けることが重要だとされています。初心者は外的イメージのほうが取り組みやすく、上級者になるほど両者を使い分けているとも書かれています。野球に当てはめるなら、打席での構えや投球フォームの感覚を確かめたいときは内的イメージ、攻撃や守備の流れ、走者を置いた場面での動きを確認したいときは外的イメージ、というように目的で選べます。

鮮明さとコントロールのしやすさ

イメージの質を決める要素として、「鮮明性」と「統御可能性」が挙げられています。鮮明性は、感情や周囲の環境、状況まで具体的に思い浮かべられるかどうか。統御可能性は、思い描いた動きを自分の思い通りに動かせるかどうかです。イメージが苦手な人には、次の順で段階的に進める方法が紹介されています。

  1. リラクセーションを実施してリラックスする
  2. 好きな風景や色をイメージする
  3. 競技の道具(ボールやコート)をイメージする
  4. 外から見た自分をイメージする
  5. 自分の視点から見たイメージをする
  6. 自分のもっとも良かった時の動きをイメージする

イメージは身体的な活動を伴わないため、グラウンド以外の場面でも行えます。授業の合間や移動中、就寝前など、練習時間の取りにくい大学生活の中でも取り入れやすい点は、時間に制約がある大学野球部員にとって利点になりえます。

方法③|試合前日から当日までのメンタルリハーサル

イメージを使って試合前に気持ちを整える方法が「メンタルリハーサル」です。秋田県スポーツ科学センターのコラムでは、これから起こりうる状況と、そのとき自分がどんな感情になるか、どんな対策をとるかをさまざまな場面でリハーサルしておくことで、試合前や試合中に焦らず臨めるとされています。

実践するときは、まず「イメージストーリー」を書き出すとよいと紹介されています。イメージストーリーとは、イメージの流れをストーリーとして書いたものです。次の順で書きます。

  1. 試合前日の過ごし方
  2. 試合当日の朝の状況(天気や気持ちなど)
  3. 試合開始前の状況と過ごし方

そのあと、書いたストーリーに沿ってイメージを進め、どう感じたか、どんな対策ができそうかを振り返ります。たとえば「球場への移動中に不安が強くなったら、呼吸法を行う」「ベンチで待つ間は、次の打席で狙う球種を確認する」といったように、自分なりの対処を一言でも書き込んでおくと、当日の迷いを減らしやすくなります。これらはあくまで考え方の例であり、公的資料に書かれた方法を野球の場面に当てはめた編集部の提案です。具体的な内容はチームの決まりと指導者の方針に合わせて調整してください。

大学野球のリーグ戦に当てはめる|日程から逆算する準備

メンタルの準備は、リーグ戦の日程と合わせて計画すると続けやすくなります。東京六大学野球・東都大学野球とも、春季と秋季の年2シーズン制で、1つのを複数試合戦うのため、同じ週の中でも連戦ごとに気持ちの切り替えが必要になります。

自分のリーグの日程は、ベースボールマニアの東京六大学野球 2026年秋季の日程や東都大学野球1部 2026年秋季の日程から確認できます。また東京六大学野球の順位表や東都大学野球1部の順位表で、勝ち点の状況を見ておくと、「この週は優勝争い」「この週はに関わる」といった試合の重みを事前に把握でき、そのうえで心の準備の濃さを調整しやすくなります。勝ち点制や入れ替え戦の用語が曖昧な場合は、大学野球の入れ替え戦の記事や用語集もあわせて参照してください。

取り組むときの注意点

最後に、実践する際に注意しておきたい点をまとめます。

試合に向けた準備を整えるうえでは、心だけでなく、体の準備も欠かせません。投手であれば野球肩・野球肘の予防、シーズンの過ごし方については球速アップトレーニングの記事も参考になります。

まとめ

メンタルトレーニングは、メンタルが弱い人のためのものではなく、競技力向上のための心理的スキルを練習する取り組みだとされています。緊張は適度であれば良いパフォーマンスにつながりうるため、「緊張をなくす」より「高すぎない状態に整える」ことを目標にするのが現実的です。呼吸法と筋弛緩法で体を落ち着かせ、イメージとメンタルリハーサルで試合の場面を先に体験し、リーグ戦の日程から逆算して準備を組み立てていく。これらを練習の中で試して、自分に合う方法を見つけておくことが、試合当日の安心感につながります。まずは今週の練習で、呼吸法を1つだけ試すところから始めてみてください。

出典

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